氷はいつか解け行く
こんばんは~ (*´-`*)

今日はBDリクのお話をこちらに先に持ってきちゃいました!

千一夜物語パロとなります。

結構長くなりましたが、切る所が分からなかったのでこのままアップさせてもらいます。
(この中の物語まで考えたので時間がかかる&長く(´・ω・`;)

よろしければどうぞ~



「本日よりお仕えさせて頂くことになりました夕鈴と申します」
「お前が汀大臣の娘か。この狼陛下に嫁いで来るとは、命が惜しくないようだな。噂は聞いているだろう」

 夕鈴は頭を下げ狼陛下の冷たい声に震えながら、必死で逃げ出したい気持ちを抑えていた。自分に与えられた使命を果たす為だと自らを奮い立たせる。

 汀大臣の娘である夕鈴が、冷酷非情の狼陛下の元へと嫁いだのは凍えるように寒い日だった――

 若くして即位した狼陛下は王城で暮らしていた数年の間に、毒花の怖さを目の当たりにした為女性不信に陥る。その為北の辺境にいた時代には、一度床を共にした女は殺していたと噂されていた。
 それでもと一人の大臣が娘を嫁入りさせたが、その日以降妃を見たものはおらず、やはり噂は本当だったと人々は噂する。

 いつまでも妃を娶らないわけにもいかないと大臣達は相談しあい、度重なる話し合いの末に白羽の矢が立ったのは夕鈴だった。


「これでよし……後は私に懸かってるのね」

 妃として王城に入り、与えられた部屋で陛下を迎える初めての夜。夕鈴は用意したオイルをキャンドルで温め、陛下の帰りを待っていた。


「お帰りなさいませ。今お茶を淹れますね」
「ああ……」

 部屋に優しい香りが充満してきた頃。政務を終えた陛下が部屋を訪れた。
 夕鈴はティーポットに数種類のハーブを入れ、お湯を注ぎ蒸らす。その間ゆっくりとお湯が色づく過程を眺めていると、陛下は少し苛立った様子を見せ椅子から立ち上がった。

「遅いな。まだかかるのか?」
「お忙しい陛下の為に特別に取り寄せたハーブです。もう少しお待ちくださいませ」

 陛下を何とかなだめようと声を掛けるが、イライラした様子は変わらない。だが無言で椅子に座りなおし、夕鈴はホッと胸を撫で下ろした。部屋に充満する香りに混ざり、ポットからブレンドされたハーブ独特の香りが漂ってくる。

「お口に合うか分かりませんが……」
「変わった香りだな」
「リラックス出来るようにと数種類のハーブをブレンドしましたので」

 ハーブティーをカップに注ぎ差し出すと、陛下はその香りを確かめている。警戒されているのだろうかと、笑顔を浮かべながら内心冷や汗をかいていると陛下はカップに口をつけ飲み下した。
 それを確認すると夕鈴は話し始める。

「陛下……。少し私の寝物語にお付き合いください」

 返事はなかったが拒否の言葉も無かった為、夕鈴はそのまま続けた――



「あいつが金を持って逃げたなど信じられない……」

 男は自宅で信じていた秘書の裏切りを知り、がっくりと肩を落とし椅子に座り込んだ。

「あなた……世の中そんな人ばかりではないわ。人を信じる事をやめないで、人は一人では生きていけないのよ」
「ああ、だが私には君と息子がいる」

 もういいのではないかと言う男を、妻は優しく制する。それがいつも繰り返される光景だった。

 男は妻の支えと仲間の協力により、事業に成功し資産を得た。
 だが大金を前にして仲間は裏切り、男は失意のどん底に落とされる。そんな時いつも妻は男を奮い立たせていた。
 そんな両親を見て育った息子は、心優しく賢い青年に育っていく。男はただ家族が居てくれるだけで幸せだった。だが、いつまでも続くと思って居た幸せは脆くも崩れ去る事になる。


「社長! 奥様がっ!!」
「どうした、何があった!!」

 男がいつもの様に仕事をしていると、秘書が慌てた様子でドアを開け駆け込んできた。何事かと立ち上がると、続く言葉は信じられないものだった。

「以前から奥様に目をつけて居た我が社の者が、社長の名を語り連れ出し……」
「彼女はどうなったんだ!」

 苦渋の表情で言葉を詰まらせる秘書に、悪い予感が湧いてくる。続きを促すと少しの間の後、ようやく話しだした。
 
「部屋に閉じ込めものにしようとした所、奥様は窓から助けを呼ぼうとして足を滑らせ……お亡くなりになられました」
「嘘だ! 彼女がこの世にいないなんて信じられない!!」

 秘書は自分の目で確かめるまでは信じないと言う男を連れ、病院へと向かう。変わり果てた姿の妻と対面した男は酷く嘆き悲しみ、この世の全てを恨んだ。
 息子のことすら信じられなくなり、会社も傾き始めやがて男は突然姿を消した。

 

 男は活きる気力もなくし気付けば山を登っていた。歩き続けていると開けた場所があり、寝転ぶと亡き妻を想う。目を閉じると風の音や水の流れる音が聞こえてきた。

「おじさん。こんなところで寝たら風邪引くよ」

 突然聞こえた声に目を開けると、うら若い少女が顔を覗き込んでいる。その姿を確認しながら無言でいると、少女は一人で語り始めた。
 早くに母を亡くした事、最近父までなくなった事……毎日食べ物を持ちやってくると返事が無くても一人で話し続ける。鬱陶しく思いながらも男が場所を移さなかったのは、何処か人恋しい気持ちがあったのだろうか。
 素直で明るい少女と触れ合う内に、男の頑なになっていた心は解れていった。やがて共に暮らす様になり、本当の父娘のように生活する事になった。
 学校に通っていない娘に、男は勉強を教え始めた。すると乾いた砂が水を吸うように、ぐんぐん知識を吸収していく。
 そんな娘にこれならと、自分の持つ知識の全てを教え込んだ。


「お父さん、ご飯できたよ~」
「ああ、今行く」

 薪割りをしていた男は手を止め、少女と共に食事を取る。その表情は幸せに満ち溢れている。
 二人が共に暮らすようになってから、五年の時が経っていた。

 食事が終わり席を立ったタイミングで、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。普通ならこんな山奥に訪ねてくる人などいないはずだと、警戒しながら声をかけると懐かしい声が返ってくる。

「お父さん……」

 それは五年前に捨ててきた息子の声だった。

 娘に促され室内に招き入れると、息子はぽつりぽつりと話し始めた。
 男の失踪後。跡を継いだ息子は周囲の協力もあり、慣れない経営に四苦八苦しながら何とかやってきた事。やっと軌道に乗ってきたと思った時、共に会社を立て直した男に裏切られた事。そして以前からここに居ることを知っていたが、幸せそうだった為そっとしておいた事。
 男はそれを聞き暫く考え込み、娘と二人別室に移り話をする事にした。

 自分の過去、娘がこのままでは勿体無いと思っていた事。息子に自分と同じ道を歩ませたくない事。一度姿を消した自分では影から支えることしか出来ないから代わりに支えてあげて欲しい事。娘にはそれが出来るだけの知識を詰め込んでいる事。
 順番にゆっくりと語られた話を聞いた娘は、ニッコリと笑うと快く了承した。

「一人になった私の傍に居てくれて、色々な知識を授けてくれたお父さんの頼みを断るはずもありません」
「ありがとう……」

 こうして息子と娘を連れ町に戻った男は影から息子を支え、息子には世間知らずな娘を守らせる。娘は男からのアドバイスも受けながら、その知識で息子を支える秘書となった。
 お互いに支えあい信頼し合う二人は惹かれあい、夫婦になり男の本当の娘となる。やがて孫も生まれ男は再び幸せを取り戻した。
 男は時折思う。亡き妻の言葉「人は一人では生きていけない」は本当だったと、あの時娘に会わなかったらこの幸せはなかった。



「幸せになってよかったね」

 話し終わった夕鈴が優しい声に顔を上げると、ニコニコと幼子の様に笑う陛下の顔がある。その表情を見て効いた様だと内心ほっとした。

「今日のお話はこれで終りです。明日はまた別のお話を致しますね」
「うん、楽しみだね」

 子犬のように無邪気に喜ぶ陛下を可愛く感じながら、淹れなおしたお茶を二人で飲み温まった。


 毎晩部屋にアロマを炊き、戻ってきた陛下にハーブティーを出し物語を聞かせる。その内容は自身の理想とする王に近付いてもらいたい一心で考えていた。

 いつものハーブティとオイルには少し変わったハーブが混ぜられている。そのハーブの効果はどんな悪人でも幼少期の素直な気持ちを取り戻す物だ。
 普段から物語を作るのが好きだった夕鈴は、よく本を作って希望者には配付する。字の読めない子供達には話して聞かせていた。その事を知った大臣が陛下を自由に操る為に考えたのはハーブと物語を使ったマインドコントロールだった。

 ある日。夕鈴はなぜ冷酷非情と言われる陛下が、素直に自分の淹れたお茶を疑う事無く飲むのか気になり聞いてみる。

「君が私を気遣い淹れてくれたハーブティーだろう」

 何故疑わなければならないのか問われ、罪悪感を感じた。もしかすると皆が言うほど冷酷ではないのかもしれない。そう思った夕鈴は翌日はそのハーブを使うのをやめた。

「今日は香りも味も違うな」
「はい、今日は変えてみました。お口に合いませんでした?」
「これでもいいが、いつもので頼む」

 少量しか使用しておらず、気付かれるとは思っていなかった為内心焦った。陛下の要求を断ることは出来ず仕方なく淹れなおすといつもの子犬になった陛下に今晩も物語を聞かせる。

 月日が経つのは早いもので狼陛下に嫁入りしてから、気付けば千一夜目を迎えた。
 夕鈴は決意した表情でハーブの用意をする。これまで一日を覗いて毎晩物語を話し、最近では夕鈴の理想の強くて優しい王様に近付いたと思えるほどに陛下は変わった。
 だが陛下は大臣の思い通りにならないどころか妻は一人で良いと言い、夕鈴が裏切ったのだと思った大臣達は刺客を送る。その時自分を守ってくれる陛下は怖いけれど雄々しく格好良かった。
 その日の事を思い出し頬を染めるが、もう自分の役目は終わったと思う。今日は最後に自分の嫁いで来てからこれまでの話をするつもりでいた。


「お帰りなさいませ」
「ただいま」

 陛下はいつものように椅子に腰掛ける。ただいまと言ってくれるようになったのはいつからだったかと、記憶を辿りながらハーブティーの用意をしていた。いつもは心地よく感じるハーブの香りが、ここ最近は不快に感じる。それに気付かれ止められた為、アロマは炊くのを止めていた。
 ハーブティーを差し出し、夕鈴は意を決して話そうとするとそれを遮る様に陛下が問い掛ける。

「陛下……」
「今日は私が話したい。聞いてくれるか?」

 夕鈴が無言で頷くとそれを確認すると、ゆっくりと語り始めた。

「私が王位に就いた時、形だけの陛下に好き勝手してきた大臣達のお蔭で内政は荒れていた。だから国を立て直す為にあのような噂を流したんだ」
「では最初のお妃様は?」

 夕鈴が疑問を口にし見つめると、陛下は無表情のまま答える。

「あの妃は私を恐れ逃げ出そうとしていたから、金を渡し国外に逃がしてやっただけだ。あの噂を裏付ける事になって丁度良かったな」

 何でもない事のように話す陛下に、夕鈴は一人心を痛める。だけど自分も全てを話しこの関係を終わらせようと思ったのだから同類だろうかと思い何も言えなかった。

「ああ、そんな顔しなくても大丈夫だ。そのお蔭で君が来てくれたからね。それに毎日の話も退屈しなくて良かったよ」

 それも全て大臣の計画の為だったなんて言えないと、夕鈴が黙って下を向くと陛下の足音が近付いてくる。
 何事だろうかと顔を上げると、陛下は夕鈴を優しく抱き上げた。

「きゃっ」
「全て分かっていたよ。ハーブの事もね」
「えっ……知ってて飲んでくれてたんですね」

 陛下は驚きうろたえる夕鈴を抱えたまま椅子に腰を下ろす。

「毒ではないし、最初は様子を見ていたんだ。すると君の話は優しさが溢れていて、毎晩楽しみだったよ」
「でも、それは……」

 最初は大臣の計画の為だったと言おうとした時、夕鈴の唇は塞がれていた。優しい口付けにうっとりしていると少しすると開放される。

「だから全部分かっているって言っている。大臣の計画だったとしても、君は指示された話をした事は無いだろう」
「はい。ただ理想の王様になってもらいたかったのです。今はそうなってくれて、ただ嬉しいです」

 陛下を見上げ笑顔を向けると、陛下も微笑み話を続けた。

「裏にまだ黒幕がいると長い事探っていた。この間の君への刺客からようやくそれが判明して、この数ヶ月で国は随分落ち着いたと思う」
「はい、それは喜ばしいことです陛下」

 そこで陛下は突然咎めるような目つきで夕鈴を見つめた。大臣の言いなりだった自分を許せないという事だろうと思い夕鈴は膝から下りようとする。するとギュッと強く抱きしめれ、身動き取れなくなってしまった。

「君は私から離れるつもりだっただろう」
「……大臣に言われるままにあなたを騙そうとしました。それにもう私は必要ないでしょうから」

 図星を突かれ夕鈴はピクリと反応し、少しの沈黙の後に観念したように答える。

「君を愛しく思っている私に必要ないはず無いだろう。それに何よりお腹の子はどうするつもりだ」

 陛下から告げられた言葉に、夕鈴は言葉を失う。今まで夜は子犬状態だったから、ずっとそんな関係になることはなかった。
 刺客に襲われた日だけは夕鈴の震えが落ち着かず、ハーブは使わないでそのまま寝台に入った。あれはその日だけだったから、自分でも確信は持てていなかったのに何故知っているのだろうか。そう考える夕鈴の心臓はドクドクと脈打った。

「この間君が熱っぽいから医師を呼んだだろう。その時調べさせていたんだ」
「でも……私は女性不振と聞いていた陛下を……騙すつもりだった女です……」

 夕鈴が震える声で何とか言い切ると、陛下は顔を覗き込み優しく告げた。

「本当に君は頑固だな。そんなに罪悪感を感じるならずっと私の傍にいて罪を償ってくれればいい。ただ君を愛しているんだ。」

 私を最初に話してくれた話の男のように、人間不信にするつもりか? と悲しそうに続ける陛下に夕鈴はとうとう折れた。

「本当に……ここにいていいんですか?」
「良いと言っているだろう」

 涙を流し喜びに打ち震える夕鈴を、陛下はただ優しく抱きしめ続けていた。

おわり
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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くれは様
おはようございます!コメントありがとうございます(o^^o)

ドストライスでした?良かったです!私もシークもの読んでみようかなあ〜
途中切っちゃったのでその間にそんな事もあったでしょうね(*^^*)

香水ダメな人はダメですよね。私は好きだけど姉はダメです!
このお話、素敵!(o^^o)
寝物語を聞いている小犬陛下が目に浮かぶようです。
胸がじんわりと温まるお話でした。こちらに来ると私じゃ到底思いつかないお話に出会えるので、いつもワクワクです!

そして、素直な気持ちを取り戻すハーブは私にも下さい←
さり奈様
コメントも素敵もありがとうございます!

さり奈さんにそう言ってもらえるなんてとても嬉しいです(≧∇≦)
そしてハーブは私も欲しいです(*^^*)
 


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