君を ※夕鈴視点※

黎翔 社長24歳
夕鈴 20歳
李順 秘書27歳
克右 運転手兼ボディガード30歳
浩大 スパイ兼ボディガード26歳
張元 珀家お抱え主治医
柳 義広53歳 常務
柳 経倬24歳 常務の長男
秋香 珀家家政婦


目が醒めると、暖かな日差しの差し込む大きな部屋にいた。


(ここどこだろ。頭が痛い――)

「目が覚めたか、お前さん3日も眠り続けておったぞ」

声がした方に視線を向けると、小さいお爺さんが立っていた。「連絡を頼む」と少し年配の女の人に声をかけると、こちらに向き直り椅子にピョンと飛び乗った。

「雨の中ずっと傘もささずに立っておったそうじゃが覚えておるか?」

静かに首を振り
「覚えてません」
「そうか……。名前など色々聞きたいんじゃが体調の方は大丈夫かの?」

そう聞かれても、名前と歳しか思い出せない……。

「名前は夕鈴、歳は20です……。他は思い出せません」
(なんで雨の中立っていたんだっけ……。頭がいたい)
小さいおじいさんは何か考えるようなそぶりを見せるが、ピョンと椅子から飛び降りる。

「まあゆっくりしておれ、じきにお前さんを連れて帰った主が帰ってくるはずじゃ」
と言って、そのまま部屋を出て行った。

起きてるのか寝てるのか、今の状態もわからぬままでいるとノックの後、ドアが開く音が聞こえ不意に優しい声がした。

「調子はどう?」
ゆっくりと視線を向けると、整った顔立ちの男性がいた。

「この前ずぶ濡れで倒れかけた君を、家に連れて帰ったんだ。目が覚めてびっくりした?」

笑顔で話しかけられるけど、表情筋の動かし方を忘れたかのように動かせない――。

「……ありがとうございます」
お礼を言うので精一杯だった。
私、どうしたんだろう――。

しばらく医者の張元さんと、家政婦の秋香さんに世話をしてもらい。夜はあの綺麗な男の人(黎翔さんて言うらしい)とご飯を食べる日々だったけど、ある日急に後ろから抱きつかれて怖くて……。一瞬嫌な記憶が蘇った気がした――。

優しい人だったけど、なんだか怖く感じてしまって……。

でもあれから毎日カモミールの花が届くようになった。

「お前さんは大事にされておるな。良い事じゃ」
張元さんはそういうけど、よく分からない。

けど分かる事は、黎翔さんは優しい。
何故か分からないけど、すごく良くしてくれる。

彼の事を考えると心が温かくなる気がする。けど、時たま言いようのない不安感、焦燥感に襲われる。そして見たくない物を見せられる恐怖を思い出す。

でも、他に何も思い出せない。


そんなある日。突然言われた婚約者の話。
最初は言われてる意味が分からなかったけど、それで私が彼の為になれるならと思って了承した。

そしてずっと気になってた事も聞いてみた。

「貴方は何で優しいの?見たくないものを見せてこないの?」

聞きながら涙が浮かび、溢れ出した涙が頬を伝う。

そして黎翔さんは涙を拭い、壊れ物に触れるように抱きしめて頭を撫でてくれた――。


それから毎日彼の膝の上に乗り、話をするのが日課になった。

私は毎日張元さんと秋香さんとしか会わないから、大した話題はないんだけど私が話してる間は静かに聞いてくれる。

たまに黎翔さんの狐と狸の小競り合いの話を聞く。会社に狐と狸だなんて、変わった会社なのね。


頭を撫でられてると昔を思い出す。
昔父さんに、夕鈴えらいねって頭撫でられた気がする。

それと同時に、青慎と父さんの死体の写真がフラッシュバックする――。





気がついたらまたベットに横になっていた――。

ぼーっと外を眺めていると、ノックの音がして張元さんと子供みたいな人が入ってきた。

「婚約者ちゃん初めまして。オレ浩大、大ちゃんて呼んでね」
「初めまして……」

今はあまり話をしたくなかった。
けど、常に明るく色んな話をしてくれ、いつも美味しそうにお菓子を食べる浩大さんを見ていると、昔青慎にお菓子を作ってあげた事を思い出す。


でも、もう青慎には作ってあげる事はできないから。
代わりに何か作ってあげたくて、秋香さんに頼んでクッキーを作らせてもらって浩大さんに出すと、喜んで食べてくれた。

「婚約者ちゃん美味しいよ」
まるで青慎がいるみたいで嬉しい。

「でも社長にも渡してやって」って言われたけど。
その日は会えなかった。


やっと会えたと思ったら。
「来客があるから一緒に会って欲しい」って言われて――。


婚約者として人に会うのは初めてだから緊張するけど、秋香さんに支度してもらって黎翔さんに連れられて部屋に入ると、そこには死んだはずの青慎と父さんがいた――。

一瞬何が起きてるのか分からなくて。
2人に名前を呼ばれて我にかえる。
触れればそこにいて、夢や幻じゃなくて――。

ただ抱き合って泣き続けた。

仕事帰りに連れ去られて、家族の死体の写真を見せられ続ける日々、もう何も考えたくもなくって――。

でも、気づいたら黎翔さんが側にいてくれた。
そして、家族にもう一度会わせてくれた。
そんな優し過ぎる位の黎翔さんに惹かれていったのも事実。

だけど記憶も戻った今、もうここにはいられない。
何も役に立てない私はあの人に必要ないよね――。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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