君を3

黎翔 社長24歳
夕鈴 20歳
李順 秘書27歳
克右 運転手兼ボディガード30歳
浩大 スパイ兼ボディガード26歳
張元 珀家お抱え主治医
柳 義広53歳 常務
柳 経倬24歳 常務の長男
秋香 珀家家政婦



「社長。考えたんですが、あの娘を婚約者って事にするのはどうでしょう。今は体調を崩してるから人前に出れないって事にしておけばとりあえずは人前に出なくても大丈夫でしょう。仮の婚約者ですけどね」

「確かに今は夕鈴の世話は張元と口の固い家政婦に任せているが、どこから漏れるか分からないしな。夕鈴には私が後で言っておこう」

「では、今日のスケジュールは――」

李順がメガネを直しながらスケジュールを読み上げているが、それを聞き流しながら家にいる夕鈴に思いを馳せる。

(仮だとしても夕鈴が婚約者か)

思わず頬が緩む。すると

「社長、聞いてますか!!」

と、李順が語気を荒げる。

「さっさと片付けて帰るぞ」

とにかく片っ端から仕事を捌いていった。






――その夜
「夕鈴ただいま!!今日は話があるんだが。……私の婚約者になってくれないか?」
一瞬の間が空き、「婚約者?」と怪訝そうな顔で聞き返された。

「と言っても仮だから、そんな大袈裟に考えなくてもいいよ。体調を崩しているから、人前には出れないって事にするしね」

「はい……。あの……前から気になってたけど、貴方は何で優しいの?見たくないものを見せてこないの?」

と、目に涙を浮かべる。

「見たくないもの?何か思い出した?」
「ぼんやりとしか思い出せないけど、見たくないのに毎日見せられてた気がする……」

とうとう涙が頬を伝い始める――。

「夕鈴、触れてもいい?嫌だったらやめとくよ」

「嫌…じゃない…」

そっと手を伸ばしてみると、少しビクリとしたけど触れられた。

そのまま涙を拭い、ゆっくりと抱きしめ頭を撫でる。

「ここには夕鈴に嫌な事をする奴はいないから、安心していいよ――」

夕鈴が落ち着くまで、優しく声をかけ撫で続けた……。






「李順。夕鈴の了解は取ったぞ」
「ではこれからは、縁談話は婚約者を理由に全部断りますからね。夜の会食も当分断りますので、早く仕事を終わらせて婚約者に会いに帰る姿を見せてくださいよ」

優秀な秘書は、その分いつも以上に仕事を頑張ってくださいよ。と釘をさすのも忘れない。

これで浩大が使えるようになる。もう少しだよ夕鈴。


***

「社長、やっと帰ってこれたよ。縁談多すぎて弱み握るのも大変だったし…」

「浩大、疲れてるところ悪いが夕鈴の事を調べて欲しい」

ソファーに座りくつろぎ始める浩大に、克右の報告書と今の状態を伝える。

「へー、夕鈴ちゃんか。何があったんだろうね?」

報告書を見ながら呟き、顔を上げると不機嫌そうな社長の姿が目に入った。

「浩大――。名前呼びは許さん、他の呼び方にしろ」

「えーと、じゃあ婚約者ちゃんで」
(名前で呼ぶのすら駄目とかどんだけだよ、今まであんなに女は面倒くさいって嫌がってたのにさ)

「まあ調べてくるから、その間に婚約者ちゃんと距離縮めていてよ。帰ってきたら美味い酒よろしくー」

手をひらひらさせながら出て行く浩大を、視界の端にとらえながら仕事に戻った――。








「夕鈴ただいま」
「お帰りなさい」

椅子に座り、夕鈴を膝に乗せて話をするのが日課になった。

まだ笑わないけど、恥ずかしそうに頬は染めるようになってきた。

「調子はどう?前よりは良くなった?」

「前よりは落ち着いたけど、たまに凄く悲しくなる時があるの――」

「夕鈴…」
頭を撫でてやると、夕鈴は気持ち良さそうに目を閉じる。

「それ、昔よくやってもらった気がする」

「それってまさか、他の男じゃないよね?」

思ったより低い声が出てしまったけど、聞こえていないかのように喋り続ける。


「分からないけど、優しく大きな手で撫でてくれた。夕鈴偉いねって…父さん…?」


突然夕鈴が体を震わし始める。

「父さんも…青慎も…もういない …いやあ――――――っ!!」

叫びながら暴れる夕鈴を、しっかりと抱きしめる。

「張元を呼べっ!!」







ベットに転がり、眠りながら涙を流し続ける夕鈴。

「お父さんも弟君も、もういないとはどういう意味なんだろうな」
「克右の報告書にはそんな事一言も書いてありませんでしたね」

李順は眼鏡を直しながら、もう一度報告書に目を通す。

「その謎が解ければ、原因も分かるかもしれませんな」

「今はとにかく、浩大を待ちましょうか」




「社長――。一応分かったけど聞く?長くなるよ?」

とりあえず報告書を受け取り、目を通す――。

(ある男が喫茶店で働く夕鈴を気に入って自分の物にしたくなり、ある日行動に移した。仕事帰りの夕鈴を待ち伏せし、後ろから羽交締めにしてクロロホルムを吸わせ意識を失わさせて連れ去る。部屋に監禁してからは常に少量吸わせて、正常な判断ができない状態でもう帰る家はないと思わせる為、父親と弟の 死体の合成写真を見せ続けていた。家族思いの夕鈴は心が折れて無表情になり、つまらなくなった男は夕鈴を遠くに捨てた)

「この前後ろから抱きついたら、酷く怯えたのはそのせいだったのか――」

「かなり自分勝手な酷い男だよな。名前聞いたら驚くよ、柳 経倬。家の常務の長男だ」



***



「社長、柳 経倬は予定通り少しのんびりしてこいってことで、小さな島に送っといたよん。ネット環境はあるけど、ほかは何もないからしっかり会社の為に仕事させないとね〜」

そう言いながら、楽しそうにニヤける浩大を尻目に仕事を片付けていく。

「後、婚約者ちゃんの家族の方は話つけて
来たから、3日後に来るってさ。本当はすぐにでも飛んで来たかったみたいだけど、遠いし平日だからねー」


「浩大、それまでは夕鈴の相手をしてやってくれ。まだ落ち着かないが、私は仕事を片付けておかなければならない。頼んだぞ」

「ヘ〜社長が俺に命令じゃなくてお願いするんだ。婚約者ちゃんの為ならか。すげえな……って、怖っ!今ペン飛んで来て床に刺さりましたケド」

「いいから早く行け!」

「はーい」

そのまま浩大はそそくさと社長室を出て行った。

「本当はもっと柳 経倬には罰を与えたかったんだが、夕鈴がされたことが明るみに出る事も避けたいし、しょうがないか……」


「社長、本当にあの娘を帰さないおつもりですか。家族の元にいる方がよくなるんじゃないですか?」

「李順。それはわかっているが、もう手放せないんだ……。家族を夕鈴に会わせる前に交渉だな」




「ただいま夕鈴、調子はどう?3日後に客人が来るから、一緒に会って欲しいんだ」
「お帰りなさい。婚約者としてですか?それなら縁談除けの為に頑張りますね。人に会うのは初めてで不安ですが」

何時ものように膝に抱えて話しても、平気そうだ。少しは落ち着いているのか?張元と、とにかく明るい浩大のおかげなのかと思うと腹立たしい。


「そんなに緊張しなくてもいいから、普通にしてればいいからね」






「初めまして夕鈴の父、汀 岩圭と申します。この度は夕鈴を保護してくれたそうで、感謝の言葉もございません」

深々と頭を下げる父親。酒とギャンブルに溺れていると聞いていたが、さすがに娘が行方不明になってからは真面目にしていたらしい。

「弟の青慎と申します。姉さんを見て下さってありがとうございました。ずっと心配していました」

そう言い、涙を浮かべる顔はやはり夕鈴にそっくりだ。

「いえ、礼には及びません私が好きで連れ帰ったのですから。ところで相談なんですが
――」





「夕鈴、支度できた?」

ノックして部屋に入ると、淡いピンクの花柄ワンピースに身を包んだ彼女がいた。

思わず見惚れて言葉も出ない……。

「黎翔さん?」
「ああ、ごめん可愛くてつい」

そのまま手を取り、家族の待っている部屋に移動する。

「じゃあ入るよ。心の準備はできた?」
「はい、黎翔さん」

少し見つめあいドアを開けると、お父さんと青慎君が立っていて夕鈴が固まる――。

「夕鈴――」
「姉さん――」

その言葉に夕鈴の瞳から涙が溢れ出す。
「青慎――、父さん――。無事だったんだ……。よかった……」

3人で抱き合って泣き続けるのを、そっと見守っていた――。
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テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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