君を
君を(助けたい)




ザアザア雨の降る中、君を見つけた――。

車を止めさせ近付いてみると、濡れることも構わずただ一点を見つめる少女。

その横顔が綺麗でつい見惚れていたが、李順の呼ぶ声で我に帰る。

「社長――、そろそろ時間が押してます。いつまでそうされてる気ですか?」

「ああ、もう少し待て。あの娘がびしょ濡れだから傘を貸してやる」

李順は不満そうにため息をつくが、見ないふりをして近づき、傘を差し出し声をかけてみる。

「風邪ひくよ」

反応のないまま、少しの時間が流れる。と、前触れもなく少女がぐらりと倒れかけ思わず抱きとめた。

「李順、今日の予定は全部キャンセルしろ。この娘を家に連れて帰る」

「ええっ、今日はこれから大事な打ち合わせや会食があるんですよ!!」

「それをうまく調整するのがお前の仕事だ」

まだ何か言ってるが、無視してそっと抱き上げて車に連れて行って乗り込む。

「克右。予定変更だこのまま家に連れて帰る」

「社長、その娘さんどうしたんですか?」

怪訝な顔で聞き返されるが、早く着替えさせないと長い間雨に打たれていたらしい体は冷え切っている。

「目の前で倒れたから、連れて帰って張元に診せる。早くしろ!」

「御意」











「張元――。あの娘の容態はどうだ?」

「よくありませんな。肺炎を起こしかけていて、まだ熱が下がりませんな。あとここ最近何も食べていないようで、とりあえず点滴を打っております」

と言うと、椅子から飛び降りせんべいを食べ始める。

少女の様子を見に行ってみると、赤い顔でうなされながら涙を流している。そっと涙を拭ってやり部屋を後にした――。


「社長。仕事が溜まっております。目覚めたらすぐ連絡するように伝えておりますので、仕事を片付けてください」




――それから目覚めたと連絡が入ったのは3日後だった。

仕事を切りのいいところまで片付け会いに行くと、張元から告げられたのは「記憶喪失」の言葉だった――。

「外傷もありませんし、恐らく心的な衝撃やストレスに脳が防衛本能で現実逃避をする心因性だと思われますな」

張元は椅子に座りずずっとお茶をすすりながら説明をする。

「何が原因かは分かりませんが、当たり障りないように接して様子を見るしかありません」

「何があったのかは知りませんが、社長には関係のないことです。あとは警察に任せましょう」
それより仕事をと促す秘書。

「――李順。彼女はこのままここで様子を見る、余計なことはするなよ?」
瞬時に空気が冷え、冷たく低い声が部屋に響く。

「――分かりました。社長の意のままに」

「張元、会えるか?」

「少しなら大丈夫でしょう。どうぞ」

「では私は調整をしてきますので、終わりましたら直ぐに仕事にお戻りください」
そう言って李順が一礼して出て行くのを尻目に彼女のいる部屋に急ぐ。


扉を開けると儚げな少女の面影の残る君が
ベットに座っていた――。


「調子はどう?」
なるべく優しく声をかけ、近くの椅子に腰を下ろすと、ゆっくりこちらに視線を向けてくれた。

「この前ずぶ濡れで倒れかけた君を、家に連れて帰ったんだ。目が覚めてびっくりした?」

にこやかな笑顔で話しかけてみる。

「……ありがとうございます」

まだ感情が読めない表情だが、やっと話してくれた。

「名前とか分かることある?」
嬉しくなって更に聞いてみる。

「……汀 夕鈴20歳です。それしか分かりません」

やはり表情はない。

「それだけ分かれば十分だよ。まだ顔色が良くないしゆっくりしていて、普通に食事ができるようになったら一緒に食べよう」

仕事に戻るからゆっくりしててねと、言い残して部屋を後にした。






「李順、あの娘は名前と歳しか覚えていないようだ。とりあえず克右にでも調べさせるか」

「社長、それは良いんですがほどほどにしてくださいよ。仕事が溜まっております、克右には私から伝えておきますので仕事を片付けてください。その書類全てに目を通し終わるまで帰れませんよ」

書類に目を通し始めると、李順は克右に伝えてきますと社長室から出て行った。

「夕鈴か…可愛い名前だ。早く終わらせて顔を見に行こう」
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